「もう十分」
Hollywood Blvd. Los Angels, USA 2007
「もう十分」
長らくフリーで実話誌などの世界で活躍してきた方が、昔話の雑談のさなかにふと漏らした言葉です。芸能や風俗といった実話誌ならではのネタを聞かされた筆者の「そういう怪しげな業界って興味あるなあ、小説とか書けそうじゃないですか」という軽口を受けて、すでにその業界を離れた彼はぽつりと言いました。
「いやあ、もう十分ですよ。あんなの別に体験しなくったっていい」
何だか、前にもそんな台詞を聞いたことがある気がします。
思い返してみれば、それは、アジアの某国で出会った日本人のおじさんの言葉でした。第二の人生に放浪旅行を選んだ彼が、日本での会社役員時代にさんざんやった接待交際生活のことを「もう十分」と言ったのです。
おじさんの話に若輩者の筆者は興味津々でした。だって自由に使える接待交際費が毎月100万円もあったというのですから。もしも日本でスーツ姿で出会って いたら、筆者はお偉いさんの彼とまともに話せたかどうか…。しかし目の前にいるラフな格好の男性はすっかりアジアの安宿が似合う人で、「だいたい月に 100万なんて使えないよ」とか言いながら、どこか遠い過去を愛おしむように「でもやっぱ銀座の女は懐かしいなあ」と笑うのです。
サラリーマンとして突っ走ってきた彼は、虚飾の世界に「もう十分」と感じて、第二の人生にアジアを選んだのです。
実話誌の世界も、接待の夜の街も、残念ながら(笑)いまのところ筆者にはあまり縁がありません。どちらも水が合わない人にはうんざりな世界だと分かってい るけれど、体験したから言えることだって多いはず。そもそも人は、自分で存分に体験してみて初めて「もう十分」と言えるのではないですか?
そう考えてゆくと、遠い目をして「もう十分」だなんて言える人生経験豊かなオトナな人が、ちょっと羨ましく思えます。
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